原子力艦1000回入港に抗議

11月2日、米海軍の原子力空母ロナルド・レーガンの入港により、横須賀基地への原子力艦船の寄港は1000回となりました。

神奈川ネットワーク運動・横須賀は、市民とともに、以下の声明文を在日米海軍司令官と横須賀基地司令官に宛て提出しました。

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米海軍横須賀基地への原子力艦船1000回入港に抗議する市民の声明

2019.11.2
在日米海軍司令官様
横須賀基地司令官様

本日11月2日、原子力空母ロナルド・レーガンの入港で、横須賀基地への原子力艦船の寄港は1000回となりました。
日本の港に初めて原子力艦が入港したのは1964年11月11日、佐世保基地への原潜シードラゴン。その1年半後の1966年5月30日、横須賀基地に原潜スヌークが入港し、今日で横須賀基地1000回目の入港です。

●安全性は証明されていない
1964年8月17日、原子力潜水艦が奇港するにあたって米国政府が提出した外交文書「エード・メモワール」は、「原子力軍艦は100回以上にわたり、外国の港に寄港したが、いかなる種類の事故も生じたことはなく」と書きます。
また、2006年提出の「ファクトシート」も、「50年以上にわたり、一度たりとも原子炉事故や、人の健康を害し、または、海洋生物に悪影響を及ぼすような放射能の放出を経験することなく、安全に運航してきた」と原子力艦の安全性を強調します。
本当にそうでしょうか?
「エード・メモワール」は、「いかなる種類の事故も生じたことはなく」と断定した後にこう続きます。
「これらの寄港は、すべて、当該軍艦の安全性についての合衆国の保証のみに基づいて、受入国により認められてきた」
「合衆国の保証のみ」ってなんですか。分かりやすく言えば「米国が安全だと言っているから安全だ」を受入国に押し付けてきた、ということですよね。
「エード・メモワール」の直後に提出された口上書「外国の港における合衆国原子力軍艦の運航に関する合衆国政府の声明」(1964.8.24)を読めば、その言い方の背景がよく分かります。
「合衆国政府は、寄港に関連し、受入国政府に対し、原子力軍艦の設計又は運行に関する技術上の情報を提供しない」
日本政府が自らの責任において、原子力艦の安全性を評価するために必要な「技術上の情報」を提供せず、「安全だと言っているから安全だ」という米国政府の姿勢を、「よき隣人」の振る舞いと言えるのでしょうか。

●事故は起きている
実際、放射能事故は何回も起きています。
初入港から4年後の1968年5月6日、原潜ソードフィッシュの佐世保入港に際して、放射能測定値が通常の最高20倍の異常値を示しました。米側は複数の専門家を日本に送り込むまでして、ソードフィッシュの放射能漏れを打ち消そうとしましたが、5月29日、原子力委員会はソードフィッシュが原因である疑いが強いという最終見解を発表します。しかし、最終見解は「米側が軍事機密に当たるとして情報を提供しなかったため断定には至らなかった」(「日米安保体制史」吉次公介、岩波新書 2018)と結論し、異常値の原因はうやむやにされたのです。
横須賀でも、入港中の原潜による異常放射値が測定されています(たとえば1996年11月15日、1998年7月11日)。2006年9月14日には、原子力潜水艦ホノルルの出港時に採取した海水のなかからコバルト58、60が検出されたと科学技術庁が発表しています。コバルト58は自然界には存在しない物質ですから、
原潜ホノルルから漏れたとするのが妥当です。
2006年6月から2008年7月までの約2年間、米原子力潜水艦「ヒューストン」から放射性物質を含む冷却水が漏れていたことも明らかになっています。米海軍は「放射性物質の全体量は極めて少なく、人体、海洋生物、環境を危険にさらすものではない 」(朝日、2008.8.8)と言いますが、放射能漏れはあってはならない事故のはず。それを量の問題にすり替えて、事故は起きていないとする論法が問題なのです。もちろん、2年以上も放射能漏れに気がつかない、米海軍の安全管理体制も問われます。
これが「事故は起きていない」の実態です。

●原子力空母の母港
2008年には、多くの市民の反対の声(2008年実施の第2次市民アンケートでは市民の70%が配備反対)を無視して、原子力空母の横須賀母港が始まりました。原潜等の一時寄港とはまったく異なる事態がこの街に現れます。
ひとつは、原子力艦の滞在日数の増加です。原子力空母母港以前、原子力潜水艦等の横須賀滞在日数は、2001年から2008年までの年平均で延べ約118日。原子力空母配備後の2009年の滞在日数は324日。実に3倍近い増加になっています。滞在日数の増加は、事故に遭遇する確率が増えるということにほかなりません。
もうひとつは原子力空母の定期修理問題です。「エード・メモワール」では、原子力艦船の「動力装置(原子炉からプロペラシャフトまで)の修理は外国では行わない」と約束されていました。そもそも放射線管理の定期修理に必要な施設が横須賀には存在しません。
約束に違反し、必要な施設も不十分なままの原子炉周辺を含む定期修理が、毎年行われています。修理によって排出された放射性廃棄物も、「艦外には出さない」(「エード・メモワール」)という約束を無視して、搬出され続けているのがこの街の現状です。

●海外母港の危険性
2017年に連続したイージス艦の事故も、私たち市民には大きな不安材料です。会計監査院は、これら事故の背景にある海外母港の問題点を指摘しています。
本国の米艦船の運用は、艦船修理の後に修理期間を超える訓練期間を設けていますが、海外(横須賀)母港艦船の修理後の訓練期間はゼロです。艦船の運航に必要な基本訓練の時間を設けないまま、横須賀の艦船は作戦任務についているのです。
不十分な施設環境での定期修理と、修理後の訓練期間がゼロという運用実態を知れば、私たち市民の不安がさらに大きくなるのも、当然だとは思いませんか。

●横須賀からの出撃も許さない
以上、安全面からの問題点を指摘しましたが、原子力艦船の攻撃面についても触れない訳にはいきません。
横須賀基地内にある第74潜水艦任務部隊司令部は、第7艦隊(第5艦隊も含む)担当海域で作戦展開する原子力潜水艦の作戦配置を決定し、作戦行動を課す部隊です。横須賀基地は原潜の「横須賀基地は原潜の単なる休養、補給基地ではなく、その作戦行動の指揮連絡中枢」(1985.8.26、朝日新聞)そのものです。巡航ミサイル・トマホークを搭載た原潜は、湾岸戦争で先制攻撃に加わったことも明らかになっています。横須賀が先制攻撃を支える街としてあることにも、私たちノーと言い続けます。

●思い新たに反対を
横須賀では、原潜の初寄港をはさむ7年間、延べ70万人の抗議行動が続きました。1000回入港の今日、直接抗議の声を上げる市民の数は決して多くはありません。しかしこれは、この街が原子力艦船の入港を容認しているということを意味するものではありません。
2015年に実施した原子力空母に関する一万人市民アンケートで、私たちは基地の街の市民の複雑な心境を聞き取りました。様々な意見がある中で、ダントツの1位は「原子力に不安」でした(4237件中1884件。2位は「もっと情報提供を」341件。3位は「抑止力として必要」299件)。
しかし、米国も米海軍も(そして日本政府も)、市民の不安を払拭するための努力は、なにもしてこなかったというのが、私たち市民の実感です。
原子力艦船の運用に関して、自ら提出した約束を守らず、日本政府に対しても、一切の情報提供を拒否するという占領意識丸出しのあり方を、私たち市民は受け入れることはできません。
1000回入港のこの日、ゲート前に集まった私たち市民は、原子力艦の横須賀入港に抗議し、原子力空母の横須賀母港の撤回と、すべての原子力艦の横須賀基地への入港の中止を求めます。

2019.11.2
原子力艦1000回入港、横須賀基地ゲート前抗議行動参加者一同
神奈川平和運動センター/神奈川ネットワーク運動・横須賀/基地撤去を目指す県央共闘会議/
すべての基地にNOを・ファイト神奈川/非核市民宣言運動・ヨコスカ/三浦半島地区労センター/ヨコスカ平和船団
(取りまとめ団体:非核市民宣言運動・ヨコスカ 横須賀市本町3-14 山本ビル2階 tel.046-825-0157)